月夜見

     ハロイン de 後夜祭 〜大川の向こう

 
都心の繁華街では
芸能人でもないのに本格的なメイク付きの仮装をし、
そのキャラになりきって街に繰り出す若い人がいっぱいいたそうで。
さすがにそこまでどっぷりと浸ろうという豪傑は、
こんな片田舎にはなかなかいないけれど。
全国ネットのワイドショーだのニュースだのでも報じられている一大イベント。
聞いた話じゃ聖バレンタインデーさえ追い抜いたほどの
途轍もない経済効果が出てもいるとかで。
それじゃあと各種関連メーカーも扱わないわけにはいかなかったらしい余波、
お菓子のパッケージにかぼちゃがお目見えしたり、
大川町の方にはあるコンビニだのスーパーだののチラシに、
ハロウィン大売出しなんていう、
どの辺であやかっているのやらな文言が入ってたりしたものだから。
よくは判らないおちびさんたちまでもが何とはなくワクワクし、
お姫様の衣装を着られるらしいと女の子らがときめく傍ら、
お菓子がたくさんもらえるらしいぞと男の子たちもキャッキャとはしゃぎ。
そうとなっては、そもそもお祭り騒ぎは嫌いじゃあないご町内、
中洲の里のおじさんやおばさんたちも よ〜しと腕まくりをし、
詳しかろう若い人に意見を聞きつつ、準備に取り掛かり。
そもそもは亡者が冥府からやって来るのを追い返す行事で、
亡者も怖がる化け物に扮した子供たちが家々を回って、
いたずらされたくなけりゃお菓子を出せと言うので、
家の人は勘弁してくださいと怖がってお菓子を上げればいいとの話へ、
なんだそれって地蔵盆と同じじゃないかなんて、
特に難しい決め事はなさそうなと安堵しつつ。
子供らの要望になるだけ沿うような扮装の支度をしてやり、
お菓子もまとめ買いしたのを重ならないよう注意しもって家々に分配し、

「鳥居と、えっとなんだっけ、お菓子だお菓子。」

決まり文句も中途半端な、なぜか豆まきの鬼の面をかぶったお化けを相手に、

「あれぇ、お助けを―。」

棒読みのセリフ付きでせいぜい怖がって見せて大人も楽しげ。
今日だけだよと貸してもらった、
お姉さんやお母さんのとっときのアクセサリーをワンピースに飾って、
お姫様に扮したお嬢ちゃんたちは、
どうやら 鬼に攫われた人質…という設定らしく。
自分の家へ辿り着くと、じゃあ返してやらぁなんて言われようをし、
グループから“一抜けた”をする。
まだ回ってないおうちのお菓子は明日届けてもらえるよう、
大人の間での目配せで通じており、

「なんか、この里独自のルールが出来ちゃいそうだね。」

高校生くらいの顔ぶれには、何だかなぁと苦笑を誘う仕儀だけど、
子供たちを楽しませたいという大人の奮闘には異議もなく。
お年玉弾んでよねなんてちゃっかり言って、
子供らの行進に付き合うエスコートを請け負ってたりもして。

「お菓子をくれないと、えっとぉ、板摺りするぞ。」

エッヘンと胸も腹も張って言いのけた、
こちらは戦隊ものの、
怪人のならともかく、ヒーローのマスクをかぶった
お元気坊やのルフィさん。
自分で間違えといて

「…板摺りってなんだ?」

ひょこりと小首を傾げるのが可愛いったらなく。
それでも本気の坊やたちへの礼儀、

「勘弁してくださいよぉ〜。」

怖い怖いと身をすくめ、はいこれと袋に詰められたお菓子を差し出す、
丘の上の床屋のおばさんへ、

「わぁ〜い、ありがとー♪」

いい子のお返事を返してりゃあ世話はない。
リーダーがそんななもんだから、
同じグループの腕白たちもありがとーとお礼を言って、
さあ次だと歩き出すのを繰り返し。
女の子たちのみならず、男の子たちも自分ちで“一抜けた”と減っていって。
最後は一人になったルフィさんだが、

「お〜い。」

最後のおうちの前で手を振って出て来た腕白さんに、
今回は別のグループに混ざってたらしい、いがぐり頭の小さいお兄さんが近づいて来て。

「なんだゾロじゃんか。」

ほら一杯お菓子貰ったぞと、
赤いお面に負けないくらいほっぺを真っ赤に笑った坊や。
あらやだ、薄暗いのにぱぁっと明るくなったよに見えたぞと、

「〜〜〜。////////」

なににどう気圧されたか、
微妙な間合い、口許引き結んで言いよどんだ剣道少年だったが、
気を取り直すと“ほれ”と差し出したのが、

「わ〜〜っ、渦巻きキャンデーだvv」

パステルカラーの飴をぐるぐる巻いて平らにした、
棒付きの大きな飴を無造作に差し出したゾロへ、
わぁいわぁいと他愛なく駆け寄る小さな腕白さん。
大人が居ては坊やの沽券にかかわろうからと、
マキノさんから代わりにお迎えを頼まれたなんておくびにも出さず、

「ルフィ宛のなのにオレんとこに紛れ込んでた。」
「わ。持って来てくれたんか、ありがとーvv」

本当は、赤髪の父上がちょっと遠い繁華街で買って来たお土産だったが、
そこも内緒にしてほしいと言われ。
律儀に言い訳を考えてのお芝居だったが、
そんなのてんで気づかずに、自分のお顔も隠れそうな大きな飴にはしゃぐ皇子で。

  なあ、こんな祭りならもっとたくさんあればいいのにな。

  そうもいかないだろよ。

  ? なんでだ?

  本当はな、
  これから寒くなんぞ気を付けろよって説教される祭りらしいからな。

  むむ、説教は要らねぇ。

  だろうが。

子供同士にしてはお兄さんが結構 堂にいったことを言ってやり、
日も落ちていて寒いのか、
やたらぐいぐいくっついてくるおちびさんに、
ほれと手を出し繋いであげて。
随分と早くなった日暮れも何するものぞと、
小さな小さな魔物の供連れ、
街灯の明かりの輪っかを目印に、
スキップしながらお家へご帰還していったのだった。



  〜Fine〜  16.11.01.


 *今日びはそれこそ子供が一人もいないような集落でもない限り、
  知らない人はいなかろうハロウィンと化してきたようで。
  定時のニュースでも扱うほどなので、
  謂れとかなんで仮装するのかとかは他人事でも、
  お菓子を配るらしいよという情報くらいは広まっている。
  演歌歌手の人だってまつわる扮装くらいするだろうしで、
  …日本人て何てノリがいいんだか。(笑)

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